書簡




キャロルがメンフィスの妃となって、はや数年が経っている。
年毎に、キャロルは女として美しさを増し、
そして大国エジプトの王妃らしい貫禄も実力も身につけていた。
そんな矢先、ふとした流行病から、メンフィスが寝込んでしまった。
その噂は、すぐに近隣諸国に広まっていった。
曰く、「エジプト王、瀕死の重体」
曰く、「エジプト王、危篤」と。
まるで皆が皆、エジプト王の崩御を信じて疑わぬ噂が。



その頃のエジプト王宮では、メンフィスは確かに流行病にかかっていたが、
症状も軽く、日に日に回復に向かっていた。
「キャロル。一体私をいつまで寝台に閉じ込めておくつもりだ?」
山のような書類を寝台の横で、目を通しているキャロルにメンフィスが尋ねる。
「だめよ。ゼネクが言っていたでしょう?この病は回復期にぶり返す可能性があるって。
 それにね、この状況を利用して、色々鬱陶しいことを一掃してしまいたいの。」
「鬱陶しい状況だと?」
「ええ、近隣諸国の勘違いさん達をね。」
キャロルはそういって微笑むと、メンフィスにキスをして立ち上がった。
「いったい、そなた何を企んでいるのだ?」
「あら、エジプトに有利な外交よ。だからもう暫くゆっくりと静養してね。」
そう言って悪戯っぽい微笑を浮かべると、キャロルは政務の間へと向かった。



政務の間では、イムホテップと書記官が総出でキャロルを待ち構えていた。
「王妃様。お言いつけ通り、書記官を全て集めました。」
「有り難うイムホテップ。皆も忙しくなるけどお願いね。
 これから、私が言う通りに、まず文章を書いてほしいの。
 但し、最後は全て違うから気をつけてね。」
そう言うとキャロルは考えていた文章を次々と書記官に告げていく。
その言葉と様子を見ながら、イムホテップは満足そうに微笑んだのでした。



こうして用意された書簡が、全てキャロル宛に送ってこられた書簡と一緒に、
近隣諸国の皇妃や王妃、そして国の要の大臣達へと送られたのです。



その中でアイシス宛にもラガシュ王から来た書簡と共に、内密にキャロルから書簡が届けられたのでした。
ラガシュ王からの書簡には、
「ファラオ亡き後、自分がファラオの代わりに全てを引き受けてやろう」
暗に国だけでなくキャロルも引き受けてやるという内容が書かれていた。
それに対しキャロルからの返答の書簡は。
「アイシス、貴女の夫はこう言ってきてるけど
 あちこちから申し込みが多くて、とてもじゃないけど貴女の夫まで相手している暇が無いの。
 でも、どうしてもというなら、月代わりでよければ順番を回してあげてもよくってよ。
 ヒッタイト王にイズミル王子、ミノス王、アルゴン王、
 青の王子、そうそうインドやその他の国からも、申し込みがあったから。
 順番は一番最後になるけど、構わないわよね?」
これを読んだアイシスがラガシュ王に詰め寄らない筈も無く・・・
そして他国でも家庭内紛争や、
お互いにお互いの順番を勝手に争い始めてしまい、
すっかりエジプトへの脅威は、なくなってしまったのでした。



後日、すっかり回復してから詳細を聞かされたメンフィスは、
「しかし・・・・・あの初々しかったキャロルが・・・・・。
 いつの間に、こんな政治的手腕を身につけたのだ?」
と、暫くの間メンフィスは頭を悩ませたのでした。




                                                             END





     ぶっ・・・・ぶぶぶぶぶっ・・・と、このお話を頂いたとき肩を震わせてしまいました。
     一滴の血も流さず、他国間と権力者間に不和の種を蒔く!!
     お見事な政治的手腕、天晴れです。
     pira様の王妃様はいつも素敵です。今回も有り難うございました!!






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